2012年6月23日

著作権法改正 -「お持ち帰りCD」記事で思うメディア評論家の鈍感さ

著作権法改正、「違法ダウンロードの刑罰化」が成立し、あとは施行されるのを待つって状態ですが、メディアでもいろいろ取り上げられているようです。

「刑罰化」については衆議院でが自民・公明から出された改正案がろくな審議がなく通過、参議院では文教科学委員会で参考人の意見を聞いたという形にはなったものの、委員会での採決前に委員の「入れ替え」があって全会一致、参議院本会議でも与党からは造反1名のみという残念な結果で成立となりました。

そういう状況なので、どこまでという線引きも弁護士の方によって解釈が異なったりしているのが現状かと。刑事罰化によって「恣意的な取締り」で当局によって「プライバシーの塊であるPC」没収も容易になることを危惧している方が多いように思います。

そんな週末なわけですが、著作物を扱う評論家(著作物を執筆、出版する側でもありますが)の「脳天気」な記事も出てます。

日経トレンディネット
連載:麻倉怜士の“家電大国”日本に喝!
2012年06月22日
麻倉怜士が喝! 「お持ち帰りCD」の成功が導く音楽産業の新たな道
http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20120619/1041568/?P=1
 今回は全世界的にCDをはじめとするパッケージメディアが退潮傾向にある中で、元気のある新しい取り組みについて紹介しましょう。

 最近驚いたのは、「お持ち帰りCD」という新たなCDパッケージの取り組みです。
 2012年1月に東京の3会場で奥田民生さんがライブイベントを開催しました。NHKホール 2公演、府中の森芸術劇場で1公演、渋谷公会堂で1公演の計4公演です。ここで「お持ち帰りCD」という、ライブ演奏がそのまま入っているCDを発売したら瞬時に完売したというのです。
結論から書くと、
  • パッケージメディアでもこんな風に〜という紹介だけ
  • 「著作権法改正」には一切触れられていない
  • というか、ライブ会場でのライブ音源販売なのに、記事では権利関係のことは一切書いて無い
こんな取り組みあるんだよ!すごいでしょ!今後の展開に期待だね!という紹介、賛美だけ。(感想文レベル)
『デジタルメディア評論家、日本画質学会副会長、津田塾大学講師(音楽)』とのことですが、デジタルメディアの評論をして下さいよという話。


詳しい人であれば(というかライブ好きの人であれば)「そんなの前からあるじゃん」という話です。
EMIミュージック・ジャパンのプレスリリースが見つからなかったので、PR TIMESから。

EMI ROCKS:日本のライヴ・フェスで初!ライヴの興奮をそのまま持ち帰る、海外で話題の“お持ち帰りライヴCD”会場限定発売
http://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000159.000000664.html
EMI ミュージック・ジャパンでは、2010年11月6日(土)に会社設立50周年を記念して開催する自社主催のロックイベント「EMI ROCKS」(会場:さいたまスーパーアリーナ)で、究極の会場限定記念グッズ「EMI ROCKSオフィシャル記念ライヴCD」を発売します。
このCDは、全参加アーティスト(11組)のライヴ演奏から各1曲をセレクト、演奏順に収録したコンピレーションCDで、当日、会場で枚数限定で発売。この日のライヴはCD・配信での発売予定がないため、究極の記念グッズとなりそうです。
このシステムは、当社の親会社であるEMIグループがワールドワイドで展開している「Abbey Road Live Here Now」。日本では、今回が初めてのトライアルで、ライヴ・フェスに出演した複数のアーティストの楽曲をアルバムに収録し、当日終演後に発売することは日本初ともいえる試みです。なお、「EMI ROCKS」は、公演チケット19,000枚が即日完売、当日券の発売はございません。
報道媒体各位
2010年10月19日
㈱EMIミュージック・ジャパン

インディーズや独自の取り組みとしてはそれ以前からあったと思いますが、EMIミュージックの仕組みが導入されたのは2010年の話。
EMIのプレスリリースでは書かれていませんが、記事にもあるように実際に運営しているのはこの会社のようです。

D.&A.MUSIC お持ち帰りCD(LIVE CD/DVD)
http://recording.co.jp/live/index.html
専用デュプリケーションルームが、LIVE会場に出張致します。LIVE音源をLIVE終了後すぐに配布できます。
実績
ケース1<イベント>さいたまスーパーアリーナ
各アーティスト1曲収録 全12曲入り
→3,400枚完売

Phile-web 奥田民生さんのライブで大反響 - 『お持ち帰りCD』の魅力とは? (1/3)
http://www.phileweb.com/interview/article/201204/17/135.html
1月に東京の3つの会場(4公演)で開催された奥田民生さんのライブで、当日の感動をその場でパッケージにして持ち帰れる「お持ち帰りCD」が販売され、大きな反響を集めた。既存のCDパッケージとはまったく違った音楽の楽しみ方を実現するもので、新たなビジネスチャンスの拡がりも期待されている。
Phile-webの記事が先で4月に掲載されたものです。日経トレンディネットの連載記事と同じ写真が使われてるし、この記事の焼き直しをしただけのような気もしてきます。

日経トレンディネットの麻倉怜士氏の記事に欠けているものは、本来評論家が行うべき評論という視点が抜けていること。
  • 「CDが売れない時代」にあって、ミュージシャンにとってコンサート、ライブでの収益は大きいものがある
  • コンサート、ライブで行われる物販の収益は特に大きい(音楽業界全体としての市場規模は大きくなっていると言われる由縁。)
  • 会場での物販は以前からやられてるし、物販こそがミュージシャンの収益になってしまっているというのが現状(全てのミュージシャンとは言いませんが)
  • そもそも、CD(=記録物)を売っても儲からないのはなぜか?
こういう視点が無いまま、『オークションでは5万円前後』『その値段でも買う人がいるということです。』と書かれても困ります。
オークションでの高価格での流通はミュージシャンにはうれしい話ではないんでは?(ミュージシャンの収入にはなりませんから)CDを落札、複製後に今度は出品というケースだってあるはずですし。

それにしても「権利関係の話」が一切無いのはどうしたことかと。
「奥田民生」だからできたという話じゃないのかなと。(コントロールの効く「大御所」かインディーズの方じゃないとできないのでは?「所属レコード会社」にはうまみが無い話ですからね)

ややこしい権利関係をどう解決したのかというところ。(他人の楽曲を演奏した場合はどうするんだろうとか思うのは私だけ?)

海外だと〜という話は書いてあるけどなぜ日本じゃそれができないのかという視点が無いこと。ライブでの写真撮影を日本でできないのは何故?という発想が無いわけです。(あとで写真をという特典にすればとか書いてますが・・・)


同じ22日にAV Watchに掲載された本田雅一さんの記事は読み応えがありました。過去から今、今後の方向性を考えさせる内容になっています。

AV Watch【本田雅一のAVTrends】ハリウッド映画スタジオに見る保護と開放のバランス
http://av.watch.impress.co.jp/docs/series/avt/20120622_541694.html
どうやら電子配信の時代、ライツロッカーで購入履歴を管理して“所有すること”について、どんな価値を提供できるのか? といった視点でビジネスを組み立てる時は、システムそのものに”売り方”の要素を盛り込まないとうまくいかないようだ。
過去から今、そして今後の方向性を考えさせる内容になっています。加えて、
 さらに日本に帰国してみると、私的違法ダウンロードの厳罰化論に混ざって、著作権保護技術を回避してのリッピングについても罰則を設けようという話がある。たとえば、著作権保護技術が施されたDVDをリッピングすることは、それ自身が罰則を伴う犯罪となる。著作権回避を行なうツールを開発しても、もちろんダメだ。
 厳罰化に関して僕は現時点では時期尚早と考えているが、著作権保護を回避することに関して、何らかの罰則はいずれ必要だろうとも感じている。しかし、同時に消費者、特にきちんとコンテンツに投資をしている人たちに対する還元も同時に行なわねばならない。
ホットな話題である著作権法改正についての考えが書いてあります。

#こういうときに元麻布春男さんだったらどういう記事を書いてたんだろうって思います。

デジタルメディア評論家が全然デジタルメディアに関わる著作権法改正に触れず、出てきた記事は感想文のようなもの。これって実は根深い問題だよなと思います。

CNET Japan クロサカタツヤの情報通信インサイト
ぼくらの七日間戦争
http://japan.cnet.com/blog/kurosaka/2012/06/21/entry_30022323/
著作権法改正が通ってしまった。しかも驚くほどあっさりと。ミスター金髪が国会まで出かけていって、慶大准教授と紹介されていた岸さんのことを「エイベックスの取締役」と名指ししてくれたのに、全然あかんかった。
津田さんたちが反対の活動をしていたのは知っているんだけど、今回はまったく歯が立たないというか、そもそも勝負にすらなっていない印象が強かった。正直、前回の「違法化」の時の方が、まだ一応、カタチにはなっていたような気がする。
この記事では、なんで利用者側はお手上げだったのかということが考察されています。章見出しだけ引用すると、
1)反対者が誰だかよく分からない
2)産業同士のガチファイトに持ち込めていない
3)きれいな戦い方しかできていない

つまりは今回の法改正推進者に対抗するような環境が無いってこと。
津田大介氏が国会に参考人として出席し、意見を述べても議員は動かなかった。

記事にも書かれていますが、20年前だったら機器メーカーが圧力になっていたけど、いまは何も無いということです。

本来はミュージシャンの側からの反応があってもよさそうな話ですけど、「みんなの大好きな教授」も今回は反応無し。(PSE問題のときは率先して反対していたんですが)
ミュージシャンとしてはどうせCDが売れても儲かるのは自分たちじゃないということなのかと。
(それより物販で〜という話に戻るわけです)

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