2012年7月6日

著作権法改正 - レコード会社DRM廃止の「ねらい」

メディア間での議論というのは、新聞の社説同士で異論を唱えたりという事例(読売社説と朝日社説)はあるものの、日本のメディアではやってこなかった部分かと思います。「記者クラブ」に代表される「談合的」な部分(ex.メモ合わせ)もありますしね。

今回の「DRM廃止」の流れについては、日経の記事に対してインプレスが検証したという構図になっています。

先日投稿した「著作権法改正 - 日本の音楽配信にいろいろと動きが」というエントリは日経電子版を読んで書いたもの。

記事はこちら。
日本経済新聞 2012/7/4 2:00
音楽配信、コピー制限を撤廃 端末選ばず楽曲再生
ビクター・エイベックスなど
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDD2809B_T00C12A7MM8000/?dg=1
廃止に動き出したのは法改正がきっかけ。海賊版のネット購入に罰金などを科す改正著作権法が10月に施行されることになり、音楽各社はコピー制限をなくしても違法なコピーに一定の歯止めがかかると判断した。「スマホやタブレット(多機能携帯端末)などいろいろな機器で楽曲を楽しみたい」とする利用者のニーズも反映した。

私は前回のエントリで、
本来のねらいは、記事にある『個人が購入した楽曲データを「スマホやタブレット(多機能携帯端末)などいろいろな機器で楽曲を楽しみたい」とする利用者のニーズも反映した』ということなんだろうなと思います。
とした上で、
今回の著作権法改正(施行は10月)で罰則化されたから「DRMをやめてあげよう」というのは音楽業界の身勝手さを感じるところです。
と書きました。

その後、インプレスのAV WatchでDRM撤廃についての記事が掲載されました。

AV Watch(2012年7月4日)
ビクターエンタなどが音楽配信のDRM撤廃へ
-エイベックスらも。スマホ移行を睨む
http://av.watch.impress.co.jp/docs/news/20120704_544808.html
音楽配信サービスへの提供楽曲について、ビクター・エンターテインメントなど数社は、原則としてコピー制限を撤廃(DRMフリー化)する方針を固めた。

そして、日経の記事に疑問を呈しています。
なお、4日の日本経済新聞記事「音楽配信、コピー制限を撤廃 端末選ばず楽曲再生」では、私的違法ダウンロード刑罰化を含む著作権法改正をきっかけと報じていたが、関連性については「法改正の前に決定していたので、特に関連はない」(ビクターエンターテインメント)、「改正以前にDRMフリー化を決めているので、特に意識はしていない。基本はユーザーの利便性向上。特に携帯電話からスマートフォンへの移行で音楽を引き継げないといった問題も起きており、こうしたことへの対応が前提」(エイベックス)としている。
当事者であるレコード会社へその狙いが取材されています。

日経の記事では「検討中」とされていたソニー・ミュージックエンタテインメントへの取材で「一部の配信サービスではすでにDRMフリー」「配信会社のサービスに依る部分あり、何をいつまでに」というような状態じゃないってことが確認されています。
ソニー自らが「Music Unlimited」というストリーミング配信サービス(PCではオフライン再生不可)をスタートしたタイミングなんで、そりゃそうだわなと思います。


さらにINTERNET WATCHではDRM廃止の理由についての突っ込んだ記事が掲載されています。

INTERNET WATCH
きっかけは違法ダウンロード罰則化? レコード会社がDRM廃止のなぜ
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20120705_545000.html
いくつかのレコード会社が、インターネットで配信する楽曲のデジタル著作権保護(DRM)を廃止する方針を打ち出している。そのきっかけについて一部報道では、楽曲の違法ダウンロードに罰則を科す著作権法改正だったと報じているが、果てして理由はどうなのか。レコード会社と日本レコード協会に聞いた。

#一部報道=日経の記事ということですね。

AV Watchではレコード会社への取材でしたが、INTERNET WATCHでは日本レコード協会(RIAJ)への取材も加わっています。
日本レコード協会の調査によれば、2011年における有料音楽配信の売り上げは前年比84%の約720億円。2年連続で対前年比がマイナスとなった。同協会によれば、これは音楽配信市場の81%を占めるモバイルの実績が落ち込んだことが要因。その一方でスマートフォンを含むネットダウンロードの売り上げは前年比123%と伸びている。 
ちゃんとした取材、数字としての裏付けもあるということで、「本来のねらい」がはっきりしたと思います。

ということで、前回書いた、
本来のねらいは、記事にある『個人が購入した楽曲データを「スマホやタブレット(多機能携帯端末)などいろいろな機器で楽曲を楽しみたい」とする利用者のニーズも反映した』ということなんだろうなと思います。
という内容で合ってたようです。

さて、著作権法改正。すでに法案成立となっているので、改正著作権法なんですかね、今回の法改正にあたっては、国会での審議で「そんな変な運用はしませんよ」ということを言っていましたし、実際、以下の内容が国会の付帯決議に入っています。
5)著作権法の運用に当たっては、犯罪構成要件に該当しない者が不当な不利益を被らないようにすることが肝要であり、とりわけ第119条第3項の規定の運用に当たっては、警察の捜査権の濫用や、インターネットを利用した行為の不当な制限につながらないよう配慮すること。

審議の過程でも罰則化案(刑罰化案)を出した自民・公明両党の議員からもそんなことは無いという答弁があったし、この付帯決議もあるわけで、大丈夫なんじゃないの?考えすぎなんじゃないのと思いたいところですが、こういう「運用」をしているのが実際のところ。

京都新聞
13歳少年がウイルス作成 京都府警、容疑で補導
http://www.kyoto-np.co.jp/top/article/20120704000139
ハッカーを名乗ってコンピューターウイルスを作成したとして京都府警サイバー犯罪対策課と右京署は4日までに、不正指令電磁的記録(ウイルス)作成の疑いで東京都あきる野市の中学2年の少年(13)を補導し、児童相談所に通告した。
同課によると、13歳の少年をウイルス作成容疑で摘発するのは異例という。
#ウイルスを作って撒いたとは書いていないことに注意。

Winny制作者裁判の弁護団(Winny弁護団事務局長)であった、壇弁護士のBlogから
http://danblog.cocolog-nifty.com/index/2012/07/post-f94f.html
この記事を前提にすると、彼は、別に、無断で他人のコンピュータにおいて実行させる目的で作成したのではないようである。
すると、非行事実が無いのではないか?
そもそも、記事の話を前提にする限り、技術自慢の将来ある少年を、むりやりに非行少年にしようとするセンスは理解しがたい。

と結んでいます。
壇弁護士のBlogにはもっと詳しく法律条文も併記して書いてあるので参照願います。


2012年10月からの改正著作権法で「DVDリッピングが違法」となり、「違法ダウンロードに刑罰が科せられる」わけで、これと同じようなことが起きるのではないかと危惧しているわけです。

YouTubeの再生時のキャッシュは?(文化庁はセーフとしているけど・・・)CCCDのリッピングは?(コピーガードじゃないけど・・・)違法なファイルをメールで送られてきた時は?(違法と知りながらじゃないとどうやって証明?)などなど拡大解釈される怖れもあり得るわけです。

それでも、「警察の捜査権の濫用や、インターネットを利用した行為の不当な制限につながらないよう配慮する」という付帯があるから大丈夫だって思えます?


関連
著作権法改正 - 日本の音楽配信にいろいろと動きが
http://tiiduka.blogspot.com/2012/07/blog-post_04.html

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